マウスピース型矯正装置による大臼歯の遠心移動
今月の話題は再度マウスピース型カスタムメイド矯正装置です。
マウスピースによる矯正治療の画期的な転換は大臼歯の遠心移動(後方移動)をマウスピースでおこなえることがわかったことです。矯正歯科治療では、不足したスペースの獲得には永久歯の抜歯か歯の遠心移動がその対策になります。
歯の遠心移動方法の種類
歯の遠心移動には3種類あります。
①タフツ大学のキム先生のマルチループによる歯の前方傾斜の立て直しを行うことにより後方へ移動する方法。
②ボストン大学のグリンフィールド先生による専用の装置を使ってまず大臼歯の遠心移動のみに治療内容を限定し行う方法。
③歯科矯正用アンカースクリューを用いる方法。
歯科矯正用アンカースクリューを使用した矯正歯科治療
歯科矯正用アンカースクリューに遠心移動の装置を結合することで、力の支点を強化し遠心移動を行います。歯には自然に前方へ移動してくる性質があり、このことにより、様々な不正咬合が発生します。
前方へ移動してきた歯をもう一度後方へ押し返すことができれば全く問題はないのですが、それができないときは後方の大臼歯の位置はそのままにして、前方に押し出された前歯のみを後方へ戻すことが矯正歯科治療として行われます。
押し出された前歯を後方へ戻すには戻るためのスペースが必要で、抜歯した跡の空地に向かって前歯を移動します。歯数の減少により、歯列の短縮が起こり、結果としてショートオクルージョンになります。ともすると後方に何もない空き地が出現する結果となることもあります。
歯の遠心移動には移動を行うための力系が必要であるとともに移動のための後方のスペースが必要です。上顎下顎ともに後方には骨の限界があり骨のないところに
は歯は移動できません。移動可能な距離を測定し、叢生の解消と前歯の後方への移動可能距離を算出します。
まとめ
いずれにしても歯の遠心移動は矯正歯科医にとって非常に難易度の高い治療方法です。マウスピースによる歯の移動で、この遠心移動が可能であることが分かりました。
グリンフィールド先生の遠心移動では片側小臼歯1本分約7mmのスペースを獲得します。マウスピースによる遠心移動は片側2.5mm両側5mmの遠心移動が可能とされています。いずれの遠心移動でも遠心移動した歯は元に戻りやすく、第2大臼歯の崩出力とも合わさり、前歯の移動時に大臼歯は前方へ引き戻されることがあります。ヘッドギアやゴムを本人が確実に使用しないといけません。
歯科矯正用アンカースクリューを使うことで、ゴムやヘッドギアなしで後方に移動した歯を後方に固定することができ、その危険性を回避することができます。マウスピースによる治療では使える方策はゴムだけですので、患者さん本人が確実に歯科医師の指示を守ることが必要です。