拡大治療のみによる抜かない矯正の突出感のある顔貌は、歯列の遠心移動を行っていないためです。
非抜歯矯正はゴリラ顔?
今月の話題は非抜歯矯正とゴリラ顔です。以前は非抜歯で矯正治療を行うと口元が出たような治り方になるという評価がありました。
これはその治療方法が拡大治療のみに依存した治療であったことが原因です。歯列の拡大治療では拡げた分だけ隙間ができそうに思いますが、歯列は正円ではないため、ある程度拡大できてもそれは左右大臼歯間の拡大量であり、小臼歯間、犬歯間の獲得されたスペースではないからです。
これは、実際には思ったほどのスペースにならないことが多くあります。
でこぼこの歯並びを抜かずに治すには、(狭窄していれば)歯列の拡大、大臼歯の遠心移動、歯のディスキング(IPR:interproxymal redaction)等の方法を使って治療する必要があります。
年齢とともに前へ
人の歯は常に前方へ圧力がかかるようになっています。そのために歯列はバラバラにならずに一塊に維持できています。
これは言い方を変えると歯列は経年的にだんだん前方へ移動してくるように運命づけられていることを意味します。
すべての人が出っ歯にならないのは、口唇が閉じている人は歯の前方への圧力に口唇が対抗しているためです。口呼吸などで口が開いている人は口唇のストップがかからないために歯列が口からあふれてきます。舌の突出癖のある人は特に出やすくなります。
小学生のうちはまだ前への移動が少ない
小学生のころであればまだこの前方への移動量は少ないことが多く、拡大治療のみでも許容の範囲であることが多いでしょう。しかし中学生以上になるとすでに前方へ移動させられてしまった歯列の位置移動量が大きいことが良くあります。
意図的に後方へ移動しない限り、歯列は頭蓋骨の前方に移動したままです。後方移動がなされなければ移動してきた位置、すなわち頭蓋骨の前方に歯列を位置させたまま整列させる以外できません。
前方へ移動してきた臼歯の位置に合わせた歯列になります。近年はそこに歯のディスキング(IPR )を追加することで隙間を得られるようになり、この隙間を使って前歯の後退ができるようになりました。
削ったスペースもきちんとケアすれば虫歯の発生は通常程度
以前はこのIPRはあまり一般的でなかったため、矯正歯科医でも積極的には行っていませんでした。しかし、削合した面からの虫歯の発生は通常の歯ブラシをしている限りほとんどないことがわかってきたため、広く認知され採用されるようになりました。
さらに大臼歯遠心移動装置GMD、ペンデュラム装置、大臼歯遠心移動装置ベネスライダーなど多くの遠心移動装置が考案され、歯の遠心(後方)移動が可能になりました。
前方へ移動してしまった歯列を元の位置へ戻すことができるようになりました。マウスピース型矯正装置でも歯の遠心移動が有効に行えることがわかり応用されています。
もちろん個々人の顎骨の発達度がありますので、個人により限度があることは否めません。