マウスピース型矯正装置による上顎前突の治療方針

マウスピース型矯正装置を利用した上顎前突の治療方針

今月の話題はマウスピース型矯正装置(インビザライン)による上顎前突(出っ歯)の治し方です。マウスピース型矯正装置(インビザライン)による矯正治療の基本は針金による矯正と大きくは変わりません。

上顎前突の矯正においては通常前歯が突出しているためこれをお口の中へ移動させる方策をいろいろと立案します。移動のための行先の場所を確保するため小臼歯4本の抜歯が選択されることもあります。

IRPを利用した治療方針

近年は大臼歯の遠心移動が可能になったため抜歯の比率は減少してきています。マウスピース型矯正装置(インビザライン)の登場とともに採用され始めたのはIPR(interproxymal redaction)です。

これは歯の脇のエナメル質を削合し、個々の歯の幅を細くすることで、歯が整列するために実際に必要な総幅量を削減し、現代の未発達なあごに歯列の大きさそのものを合わせましょうというものです。片側0.5㎜程度であれば問題は起きないという研究が底にあります。

実際には下顎前歯の様に幅の狭い歯がありますので、すべての歯で、0.5㎜×2ということはありません。

歯には山谷がありますので、これを無視した削合もできません。

その中で、計算上は1顎14本ある歯並びの歯の間は13ありますから、13×0.5mm×2で13mmの隙間がIPRによって獲得できます。

下顎前歯分を差し引いて考えても約10㎜の隙間を作ることができます。小臼歯抜歯で獲得される隙間は平均14㎜です。ほとんど小臼歯2本を抜歯したと同じ程の隙間を確保することができます。

 

歯の遠心移動もご本人の協力次第で対応可能に

また、マウスピース型矯正装置(インビザライン)は従来コントロールが難しいとされていた歯の遠心移動もアンカースクリューあるいはゴムを本人が確実に使うことで可能になりました。

大臼歯の遠心移動の移動量は人にもよりますが、片側2mm程度は可能とされています。両側の遠心移動分を合わせ、IPRを含めると14㎜となり、計算上抜歯治療と同程度のスペースが獲得されることで抜歯の必要な場合が大幅に減少しました。

上顎前歯の口腔内への移動量は計算上7㎜移動できることになります。もちろんワイヤー矯正でもIPRを加えれば抜歯を必要とする場合が減少します。マウスピース型矯正装置(インビザライン)での遠心移動はそれなりに枚数がかさむため、IPRを併用することで、枚数を減らすことができます。

IPRを減らすには遠心移動量を多く計画します。下顎の叢生量の多い方の場合は従来からのリップバンパー装置、マウスピース型矯正装置(インビザライン)の遠心移動機構、IPR,顎間ゴム、アンカースクリューによる移動等を併用して行います。

マウスピースになったから治療が簡単になったというわけではありません。むしろより複雑化してきたと言われています。本人の矯正治療に対する協力度も結果を左右します。