コロネクトミーは知歯の抜歯の際の神経損傷を避けるために考案されました。まだ、知られていませんが、画期的な方法です。
今月の話題はコロネクトミーです。
下顎第3大臼歯の抜歯の術後偶発症として下唇の知覚鈍痲があります。これは知歯の埋伏位置が下顎の神経(下歯槽神経)に近く、抜歯時に神経末端を損傷することにより起こります。下唇知覚麻痺の頻度は一過性で0.4%~11.5%、永続性では0.1%~1.05%と報告されています。神経の枝部分の走行状態によるため、予測は困難です。
こうした偶発症を防ぐためコロネクトミーが考案されました。歯冠周囲炎を起こす原因となる歯冠部のみを除去し、下歯槽神経に接する歯根部分のみ下顎骨内にそのまま残しておきます。歯冠部のみ除去した後、切断歯髄面は薬剤などによる被覆はせずに歯肉骨膜弁で被覆し、閉鎖します。切断した歯髄は壊死することなく第3象牙質で覆われていたと報告されています。適応症としては
①下歯槽管が第3大臼歯根尖を迂回している。
②下顎管が第3大臼歯根尖で狭窄している。
③第3大臼歯根尖の歯槽硬線が下顎管の付近で消失している。
④第3大臼歯根尖付近で近傍の透過性が亢進している。
⑤第3大臼歯根付近で近傍の透過性が亢進している。
⑥第3大臼歯歯根の狭窄と下歯槽管との重なりがある。
⑦第3大臼歯歯根の湾曲がある。
等です。
歯科用CTで確認することで概ねの状態は把握できます。処置後の典型的経過としては
①約3カ月後に残根の前方移動が見られる。
②残根は新生骨により完全に被覆される。
③そのまま変化なく経緯する。
残根が骨におおわれなかったのは2%と報告されています。残根は術後3カ月で1.84mm、1年で2.88mm、2年で3.41mm、3年で3.51mm前方へ移動します。
術後疼痛については通常抜歯より、有意に強いといわれています。鎮痛剤で対応します。開放創になった場合は残根の前方移動を確認後抜歯します。第2大臼歯の後方ポケットに残根が萌出してくることもあります。この場合も残根の抜歯が適応となります。歯肉縁下からの萌出が起こることもあります。下顎管からの離脱を確認したのち抜歯します。
従来残根を残すとそこから感染症を起こすといわれ、必ず完全に抜歯することが推奨されてきました。しかし、現在までのところ重篤な炎症や、のう胞の経過をとった例はないと報告されています。2回に分けて抜歯する方法や、牽引してから抜歯する方法などもありますが、コロネクトミーの方が受け入れやすいと目されています。コロネクトミーで残根を後で抜く率は5%弱であり、侵襲も少ないことから問題にはならないと考えられています。まだ保険には導入されておらず、自費になることが、普及を妨げていると考えられています。