マイクロオステオパーフォレーションは歯の移動を加速させる方法の一つです。歯槽骨に傷をつけ、その治ろうとする治癒機転を利用します。
今月の話題は、マイクロオステオパーフォレーション(micro-osteoperforation:MOP)です。
マイクロオステオパーフォレーションは歯の移動を加速させる方法の一つです。歯槽骨に機械的損傷を与え、その治ろうとする治癒機転を利用します。具体的には歯槽骨に直径1.5mmの小さな穴を複数あけて骨に刺激を与えます。骨は治ろうとして、サイトカインの活性を増大させ、骨改造現象が進行します。歯の移動を50~60%加速させるという報告もあります。動物実験でも骨のリモデリング(骨の改造現象)が活性化し、サイトカインの発現も増加し、歯の移動が促進されました。
①通常、歯を動かそうとバネで歯に力を加えると、歯の周りの歯周組織に炎症が生じサイトカインが分泌されます。
サイトカインとは細胞外に放出されるシグナルプロテインで、低濃度でも細胞と細胞の伝達に働く重要なタンパク質です。サイトカインには様々な種類がありますが、中でもインターロイキン1は直接破骨細胞を活性化します。白血球を引き寄せ、繊維芽細胞、上皮細胞、破骨細胞、骨芽細胞を刺激し、骨吸収を促進し、骨形成を抑制します。組織の治癒、再生過程には、血小板も大きく関与しています。血小板は創傷組織の再生過程に関与するタンパク質で、サイトカインのキャリアーとしての役割を持ちます。サイトカインの一部をノックアウトしたマウスでは歯の移動が生じないことが知られています。分泌されたサイトカインにより、破骨細胞、骨芽細胞が誘導され、歯の移動が起こります。
マイクロオステオパーフォレーションでは骨に小さな穴をあけることで傷を作り、傷を治そうとする生体の反応を引き出し、より多くのサイトカインを分泌させます。穴をあけるだけなので、術後の痛みも少なく、多くの場合痛み止めは必要ありません。出血も通常すぐ止まります。6カ月から12週間程度効果が持続するといわれています。創傷の大きさに比例して破骨細胞、骨芽細胞が誘導されます。反応には個人差があります。
②歯の移動にはプロスタグラジンも関係しています。
傷を与えることで炎症反応が生じると白血球、単球、マクロファージが組織に侵入し、プロスタグラジン合成が高まり、骨吸収を起こします。ネズミにプロスタグラジンを投与すると破骨細胞が有意に増加しました。プロスタグラジンのインヒビター(阻害剤)、インドメタシンを投与すると歯の移動が遅れます。プロスタグラジンE2はカップリング剤として骨芽細胞の分化や増殖に関与しています。
矯正治療を加速させる方法としてはその他に超音波を利用した方法(アクセルデントacceledent)、サイトカインの注入、レーザーを利用したものなどがあります。