中学生以上の抜かない矯正では大臼歯の遠心移動が必要なことがあります

今月の話題は大臼歯の(後方)遠心移動です。中学生以上の抜かない矯正治療においては大臼歯の遠心移動が多くの場合必要です。
その理由は歯の生理的な性質にあります。歯の根は真直ぐではなく根尖で後方へほんの少し曲がっています。

咬合力がかかるたびに歯はいったん沈み込みまた浮き上がる動きをしますが、そのたびごとに少しずつ前方へ移動していきます。 この性質があるため歯並びはバラバラにならずに一つの連続したアーチの形状を保っています。隙間ができると後方の歯が前方へ移動して隙間を埋めます。
歯の種類によってこの力が強い歯と弱い歯があります。口が開いていたり、舌で前歯を押す癖があったり、下唇で上顎前歯を下から押し上げる(下唇を吸い込む、下唇を上顎前歯の下にはさむ、下唇を噛む)癖があると上顎前歯は前に押し出され、その跡に後ろの歯が移動してきます。
奥歯はどんどん引きずり出されて、本来の位置より前方へ移動していき、前に押し出された上顎前歯は後ろの歯が一緒に前方へ移動してくるため戻れません。
上顎前歯が斜めになると下顎前歯との間の空間がますます大きくなり、さらに下唇が入り込みやすくなります。
楔を打つように上顎、下顎前歯の位置は連続しておし広げられるように変化します。
移動は一方方向へ(上顎前歯はさらに斜めに、下顎前歯はさらに内側へ)止まることなく続きます。
そのため小学1年生くらいではそれ程でもなかった、上顎前歯の傾きは年齢とともに悪化します。5年前の状態と今の状態を比べると必ず状況は悪い方向へ変わっています。歯の重なりがひどくなっていることもあります。
歯列の拡大だけでは隙間の確保に限界がある場合があるのはそのためです。出てきてしまった歯を元に戻すには戻る先の隙間が必要です。
小臼歯を抜いて隙間を作る方法が多く行われていますが、前方方向へ引きずり出された大臼歯をもとの位置に押し戻せれば本来の形が復元できることになります。
この方法は20年ほど前に開発され、臨床に応用されてきました。それ以前は大臼歯をもとに押し戻す方法がわからなかったため、ほとんどの場合、抜歯による隙間の獲得が採用されていました。なるべくひどくなる前に、年齢が若いうちにリセットすることが成功の秘訣です。近年歯科矯正用アンカースクリューを使用した矯正歯科治療が登場し、大臼歯の遠心移動はさらに成功の確率が高くなってきています。