原因不明の歯の痛み、口腔内の不快感、べとべとする、かみ合わせが変、口臭がするなどは、初期のうつ病の身体症状として出ている場合があります。うつ病は対処が早い方が治りやすいといわれています。
今月の話題はPIPC(Psychiatry In Primary Care プライマリケアにおける精神医学)です。精神疾患や精神的な問題をかかえる患者さんに対して苦手意識を持つ身体科医に対する精神疾患診療のプログラムです。
1998年以降、日本の年間自殺死亡者の数は急激に増加し、10年連続で3万人を超えました。自殺未遂者数はその10倍の30万人以上と推測されています。自殺率は世界101か国中第9位。人口10万人に対してアメリカ11人に対して日本24人です。死因の第6位になっています。不景気との関係が指摘されています。
こうした自殺の背景にはストレスに関連したうつ病があり、自殺者の30~60%がうつ病にり患していたとの報告もあります。うつ病の生涯有病率はアメリカ16%、男性は10人に1人、女性は5人に1人の確率で生涯に1度はうつ病にかかるとされています。日本でもうつ病の生涯罹患率は8%と言われています。
うつ病患者さんは、口腔内に症状を発症する率も高く、原因不明の歯の痛み、口腔内の不快感、べとべとする、かみ合わせが変、口臭がするなど、最初に歯科にかかる事も多く、精神科や心療内科を受診する率はまれで、歯科を含めた身体科医を受診することが90%以上と言われています。しかしこれらの患者さん方のうち、うつ病、あるいはうつ状態と診断されるのは25%程度であり、歯科ではほとんど見逃されています。
うつ病はその多くが初期には身体症状を訴えとしていることが多く、自分自身もうつ病であることを自覚していません。うつ病は早く診断されればされるほど予後がよいことが知られています。軽症うつの状態で、適切な対処を行うことが日本の自殺者数の低下につながると考えられています。
うつ病に多い身体症状の一つは睡眠障害です。睡眠導入剤の安易な服用はよくありません。耐性や常用量依存を招きます。うつ病にも効果はありません。
うつ病によくある症状として、睡眠障害、食欲低下、体重減少、全身倦怠感があります。症状が多彩である、単一の病因では説明が困難、必要な検査を行っても症状を説明できる異常が認められない、身体疾患に対する治療を行っても自覚症状の改善が認められない、冠動脈疾患、脳血管疾患、がんなどの疾患にり患している、などの場合や、突然受診行動が変化したり、身体疾患では説明のつかない検査所見の変化があったり、あるいは過去に自律神経失調症、更年期障害、心身症などの既往がある場合、うつ病になりやすい背景を持つ、コミュニティーでの評価なども診断資料とします。炎症性疾患、甲状腺疾患、副腎疾患、鉄欠乏性貧血、栄養障害、電解質異常などの身体疾患の場合ももちろんありますので鑑別が必要です。