顎顔面骨の垂直的高径と上顎骨の成長発育方向

今月の話題は顎顔面骨の垂直的高径と上顎骨の成長発育方向です。従来、上顎骨の成長発育は鼻中隔軟骨の成長により上顎骨が前方へ移動し、できた隙間に骨が添加して移動した隙間が埋まっていくことで成長が進行していくと考えられてきました。

しかし近年、解釈は変わってきています。蝶形骨、後頭骨、鋤骨で構成される脳頭蓋底部は屈曲、伸展の動き方で動いており、この屈曲伸展の動きのどちらが大きく、どちらが小さいかが、上顎骨の成長方向に大きく影響を及ぼしているらしいのです。

屈曲が大きいと、上顎骨を下方へ押し出す力を持ち、伸展が大きいと上顎骨を前方へ押し出す力が大きくなります。頭蓋が屈曲パターンをとる場合は蝶形骨と後頭骨で作られる頭蓋角が小さくなり、頭蓋の前後的大きさが減少し、顎顔面部では上顎骨を下方へ押し出す力がかかり、顔面の垂直的高さが増し、下顎骨の回転による適応が必要になります。同時に側頭骨を外側に回転させながら開大させます。上顎骨が前方へ出てこないため、後方臼歯部の成長が悪く、上顎結節の発育も悪く、大臼歯の萌出余地が不足しがちです。狭いところに無理に大臼歯群が萌出してくることにより、後方の歯が骨ごと挺出し、(歯の押し出し現象)後方の高径が過大になります(下に伸びます)。

咬合平面の後ろが下がることで、咬合平面は水平化することになり、歯列は下顎前突や下顎前突を伴う開咬を呈してくることになります。頭蓋が伸展パターンを示す場合は頭蓋角は開大し、上顎骨は前方へ押し出され、上顎臼歯の高径は増加せずにすみ、咬合平面は水平化せず、逆に急峻な傾斜を作ることになります。側頭骨は内側回転しながら後方位をとるため相対的に下顎骨も後方に位置し、下顎の後退や後退しながらの開咬を作ります。以前からの統計でも、実際の反対咬合の方の頭蓋基底部の角度は122.2°±4.7°上顎前突の方の頭蓋角は128.9°±4.5°正常咬合の方の頭蓋角は124.2±5.2°という計測結果が出ています。下顎前突の方の頭蓋基底骨は小さく屈曲パターンであり、実際に咬合平面は水平になりやすいこと、上顎前突の方の頭蓋基底角は大きく、伸展パターンであり、実際にも咬合平面は急峻になりやすいこととリンクします。このように不正咬合ごとに頭蓋基底角のパターンがあり、それぞれの不正咬合発生の関連性がわかりました。上顎前突の方の場合、上顎の過大成長の場合はあまりなく、上顎前突の80%は下顎後退による相対的な上顎骨の突出であることも以前から知られています。