歯の移動について
今月の話題は歯の移動についてです。歯が移動する時、歯は骨の中を動いていきます。この場合の骨は骨髄(海綿骨)のことを指します。海綿骨がないと歯は移動できません。骨の周りの硬い部分(皮質骨)は移動には使えません。したがって、矯正歯科治療で歯を移動するときには移動の途中と、移動先に海綿骨が十分にあるかどうかが重要です。先天的に下顎第2小臼歯がない方の場合、補綴処置を避けるために大臼歯を前方へ移動させる計画を立てます。しかし、大臼歯の幅は大きいため、大臼歯を小臼歯の生えていた狭い場所に移動させることは大変困難です。海綿骨の幅が少ないからです。幅の大きな大臼歯はつかえてそのままでは移動できません。年代が若い方であれば、海綿骨を作りながら(拡げながら)移動することが多少可能です。しかし、骨を作りながらですので、移動には時間がかかります。第1大臼歯と、第1小臼歯より前方の歯を一塊にして、互いに引き寄せますが、骨の抵抗が強いため、8歯対2歯の綱引きであるのにもかかわらず、第1小臼歯より前方の8歯すべてが、抜歯スペース分後方へ移動してしまうことさえあります。
隙間のない場合など、抜歯してスペースを作り、矯正治療をすることを矯正歯科では良く行います。(山下矯正では少ないです。)抜歯と同時に、骨は治ろうとする機転を開始し、抜歯された部位に骨が作られ始めます。骨化が進むと、歯の移動に骨の抵抗が加わります。最もスムースに移動できるのは抜歯後約4週間までです。この期間をいかに有効に使うかが、矯正治療を成功させるポイントです。矯正治療で抜歯して治療をする場合、最近の方法は矯正のバネを先に装着しておいてそれから抜歯します。これは摩擦のない矯正装置の開発があったことでさらに有効となりました。抜歯と同時に矯正力がかかるため移動がとても効率的に行われます。ロスタイムがなくなります。反面、抜歯のときに、すでにバネが装着されているため、抜歯操作は多少不自由になります。抜歯後の来院が伸びてしまったときのように、抜歯して放置されたまま時間が経過すると、骨は瓢箪状にくびれてきます。海綿骨がほとんどなくなり、歯が移動できなくなります。抜歯スペースの閉鎖も不可能になります。