量子コンピュータについて

量子コンピュータでは傍受不可能な通信技術など多くの可能性が予想される

今月の話題は量子コンピュータです。
量子の重ね合わせ、量子のもつれといった量子のふるまいを利用したコンピュータです。
量子の重ね合わせとは、量子は観測者が観測して初めてその位置が確定しますが、観測していない状態ではその位置は決まっていないという性質があります。

量子のもつれとは、量子同士が相互作用すると、強い相関を示す性質です。
一方が1ならばもう一方も1であるという関係がわかっていると、一方を測定するともう片方の状態が確実にわかるという性質です。

2022年のノーベル物理学賞は、光子を用いる実験によってベルの不等式が破れていることを示し、量子のもつれの存在を確定した3人の研究者に贈られました。
ベルの不等式は、2つの相関した量子において、生まれたときに個々の量子の状態が0または1に決まっているとするとこの不等式が成り立つというものです。

しかし、量子のもつれという性質が正しければベルの不等式は成り立たないこともわかっていました。
3人の研究者の実験がベルの不等式の破れを証明し、量子のもつれが現実にあることが証明されました。
古典コンピュータではスイッチのオンオフで0と1の表現をし、ビットと呼びます。量子ビットでは0と1と、そのどちらでもないになります。
量子ビットがn個では2n通りの数字を取り扱うことができ、これを1回の計算ですますことができます。
量子コンピュータは、様々な分野で活躍が期待されています。
量子のもつれを利用することで、どんなに離れているところにもできる通信が可能になります。
途中の傍受や窃用ができません。新薬の開発、交通網の緩和、金融資産のポートフォリオなども期待されている分野です。

量子ビットはまだ多くの問題点がある

しかしまだ多くの問題点があります。
①微弱な単一の光子を測定し、検出できる装置が必要。
②重ね合わせが壊れないように維持する時間(コヒーレンス時間)を長くしなければならない。
③光子を集光するための高精度のレンズが必要。
④最も進んでいる熱伝導量子コンピュータでは絶対零度付近の環境を作る冷凍庫が必要であり、現在の量子ビットの大きさからすると体育館ほどの大きさが必要であること。金属ケーブルから熱が流入してしまうこと。
⑤量子コンピュータはノイズの影響を受けやすく、エラーを訂正する量子誤り訂正技術が必要であること等です。

量子ビットの作り方

量子ビットの作り方もたくさんの方法が研究されています。
①光子の振動の向きを利用する方法。
②超伝導を利用する方法。超伝導状態で、円環状の回路に電流を流した時に流れる電流の向きを変えることで0と1を作る。IBMはこれを利用しています。現在最も研究が進んでいます。
③イオン状態のエネルギーを使う方法。荷電粒子のエネルギー準位を変えることで、0と1に置き換える。
④電子のスピンを使う方法。スピンには上向きと下向きがあり、これをビットに使います。