ベンハムのコマを回すと、白と黒の光の点滅を見ているだけなのに、赤、黄、紫などの色が見えます。この色は視細胞で見ているのではなく脳で感じている色です。
今月の話題はベンハムのコマです。
ベンハムのコマとはドイツの物理学者フェヒナーが発見した現象をイギリスのベンハムがおもちゃとして開発、販売したものです。白黒の模様のコマを回すことで、赤、黄、紫などの色が見えます。色の見える詳しい理由はわかっていません。
人間の網膜には赤、青、緑の光を感じる視細胞(捍体細胞;明暗を感じる、錐体細胞;色を感じる、赤、緑、青)があり、光の刺激を受けてパルスを発生し、脳の後頭葉視覚野で色として認識します。3色以外の色では、たとえば黄色は赤と緑の視細胞が反応して黄色に見え、空色は緑と青の視細胞が反応して空色を感じます。赤、青、緑のすべての視細胞が反応すると白、均等に少し反応すると灰色、光がないと、すべての視細胞は反応しないので、黒に見えます。
マゼンタは赤と、青の視細胞です。太陽の光の中にはすべての色が含まれていますが、ベンハムのコマは、トンネル内のオレンジの色などのような単色のみの光の中でも緑がかったり、赤、紫が見えます。このことからベンハムのコマの色は単なる光の反射で見えるのではないといわれています。通常の緑の視細胞が反応して、緑を感じたり、青の視細胞が反応して、青を感じているのではなく、色は脳で感じており、光の刺激は目から入りますが、色の認識は視細胞の反応ではなく、脳の視床より内部で感じているとされています。ベンハムのコマが回っているのを見ているとき、目は単に白と黒の光の点滅を見ているのみです。
視細胞には光の点滅の間隔と長さのみの入力です。ベンハムのコマの色の感じ方は人により異なり、同一ではありません。年齢による違いもあります。回転数、白黒のパターン、その割合と場所を変えることにより二つの色が入れ換わったりすることも観察されています。回転を逆にすると色の順序は逆になります。
クラシカルなベンハムのコマの模様では写真には写りませんでしたが、その後の様々な研究により、白黒のパターンによっては写真にも写ることがわかりました。太陽光の下では写らなかったものも、蛍光灯の下では写ることがあることもあり、また蛍光灯下では写る色も変わることがわかっています。
コマの模様では、単なる白黒の交互の現れでは色は現れませんでした。白と黒の割合が異なる必要がありました。赤と緑は補色(足すと白になる)の関係にあり、青に対して補色は黄です。色の補色関係も発現に関連があるようでした 。ベンハムのコマの色の発現は、白から黒、黒から白へのパターンが変わるときに、目が刺激されてパルスを発生させますが、そのパルス発生の時間に、目の疲労による時間差がおこり、その時間差による光の干渉が、白でもなく黒でもない干渉信号として脳に届き、色として認識されるようであると考える人もいます。