生物の寿命を表すテロメア

テロメアの長さががその生物の寿命を表します。テロメアは細胞分裂のたびごとに短くなっていきます。

今月の話題はテロメアです。テロメアは真核生物の染色体の末端にある構造物です。染色体の分裂とともに短くなり、最終的には分裂が止まってしまう細胞の老化現象を起こす部分です。真核生物の染色体は直線状であり、染色体の末端が存在し、ここがテロメアです。DNAが複製されるときには二重らせんがほどけてコピーが作られます。DNAポリメアーゼは一方向にのみ(5`末端から3`末端)しかディオキシリボヌクレオチトドの付加を行えません。鋳型DNAの片方は連続的に複製される(リーディング鎖)のですが、もう片方は非連続的に短いDNA断端(岡崎フラグメント)を合成しては連結、統合することで完成されていきます(ラギング鎖)。

複製を開始するためには核酸の断端(プライマー)が必要であり、この断端はDNAプライマーゼにより作られるRNA断端が使われます。断端は複製後に除去されるため複製されるたびにプライマーの長さ分だけ染色体は短くなります。このことによりどうしても複製できない部分が残ります。この部位がテロメア部分として意味のない塩基(チミンとグアニンTTGGGGなど)の繰り返し配列が、そのコピーのできない部分を補っています。テロメアの構造はDNA3`末端がオーバーハングし1本鎖となり、折り曲がってTループと呼ばれる構造をとったのち突出部分の1本鎖が2本鎖DNAの間に入り込み、3重鎖構造となっています(Dループ)。これにより末端の安定性を得ています。

Tループを形成できなくなり、DNA末端が露出すると細胞周期を止め(細胞老化)、酵素によって分解されたり、修復機構により末端同士が癒合させられたりするため、細胞死や癌化につながることになります。テロメアはテロメアーゼという酵素により伸長されますが、ヒトの体細胞では発現しないか弱い活性しかありません。生殖細胞、癌細胞では活性があります。早老症の一つウェルナー症候群や、ドリーのような体細胞の核から作られたクローン動物においてはテロメアの短縮がみられます。

6歳の羊の体細胞から作られた1歳のドリーの血液のテロメアは同年齢の羊より20%短かったという報告があります(6歳相当)。羊の寿命は15歳なので、19967月生まれのドリーは2006年ころに寿命になると推測されました。実際にはドリーは2003214日回復の見込めない肺疾患により安楽死しました。6歳でした。

テロメアはストレスのある環境では短くなります。傷ついた細胞を修復するため細胞分裂が頻繁に行われると、、テロメアは短くなります。酒、たばこなども細胞の修復を誘い、細胞分裂が増えるためテロメアは短くなります。40代以上の女性23人に毎日12分、2か月の瞑想を行ったところ43%のテロメアの伸長が認められました。

有酸素運動(週6130分のウォーキングなど)、野菜中心の食事、友人との対話、7時間以上の睡眠、などもテロメア伸長に効果的とされています。テロメアの短い人でも長寿の人はいるので、テロメアのみで寿命を論じることはできないことも分かっています。