認知症の人との会話について
認知症患者の思考回路について
認知症の人の噛み合わない会話にも深い意味があります。
今月の話題は認知症患者の思考経路です。
認知症は脳組織の変性や血管障害による損傷により脳の機能が衰えて生活に支障をきたした状態です。
認知症は記憶を中心とした認知能力の低下に始まり、言葉を理解し、言葉で自分の考えを表現する力が次第に衰えていき、最後には言葉自体が失われていくのが流れです。
偽会話について
言葉によるコミュニケーションも変容していきます。
コミュニケーションには情報を共有するとともに情動共有の側面があります。
グループホームの会話の中で、会話の中身が全くかみ合っていないのに、そのグループ内では何のトラブルなく穏やかに会話が過ぎていくことがままあります。
これはコミュニケーションでは、言葉が情報の共有よりも情動の共有に大きな力を持っていることを示唆します。
これは偽会話とよばれています。
情報の共有が失われた会話ですが、情動を共有することにより、コミュニケーションはとれており、親しい関係が成り立ちます。
情動型コミュニケーションについて
一般的には挨拶などがその例です。
こんにちわという言葉は意味や情報を持ちません。
しかし互いに挨拶することで互いに善い情動的コミュニケートが成り立ちます。あいさつはお互いの言葉の内容の理解ではなく、互いに情動の共感を持つことが目的となります。
笑顔も同様に情動型コミュニケーションのひとつです。
認知能力が衰えてきた人との会話は情動型コミュニケーションが主になります。
認知症の方が、情報型の会話に引き戻され、認知能力、判断能力を超えたとき、強い不安、恐怖、屈辱、憤怒を経験し対応能力の低下によりパニックを起こし、容易に相手と敵対関係に陥ることになることはよくあることです。
痴呆ではないと確信している人でも情動で動かされていることは多く、共通項目です。
情動が強く作用することにより情報の取り込み方に影響が及び、自分にとって都合の良い情報を選択し信じ込むことは一般社会でもよくあることです。
認知症患者が認識し見ているものは?
認知症患者が認識し見ているものは、本人が見たいものを見ているといわれています。
探索像が知覚像を消してしまう現象が起きていると考えられます。
探し物をするときにも思い描いた形のものを探していると、違った形の捜し物があっても認識せずに通り過ぎてしまうことはよくあることです。
認知能力が衰えてくるとその人の世界が出来上がり、他のものは目に入らなくなることは、やはりこのふるまいの延長腺上にあると考えられています。
理解のできずらい認知症を発症した方の思考経路は一般人の思考の先にあり、決してそれまで生きてきた社会から逸脱したものではないことがわかっています。