水痘ワクチンを成人に接種すると帯状疱疹や帯状疱疹後神経痛の予防になるといわれています。発生率は42%低下しました。
今月の話題は帯状疱疹です。
帯状疱疹は水痘帯状疱疹ウィルスで発症します。水痘にかかった後、三叉神経や脊髄神経の知覚神経節にウィルスは遺伝子の形で潜伏します。加齢、ストレスや過労など体の抵抗力が低下すると遺伝子の形からウィルス粒子に変わって活動を始め、神経細胞を囲んでいるサテライト細胞内で増殖し、神経を伝わって皮膚に現れて炎症を起こします。
60歳代を中心に50~70代に多く発症しますが、若い人に発症することも珍しくありません。胸から背中にかけて最も多くみられ、半数以上が上半身です。神経痛のような痛みが起こり、虫に刺されたような赤い発疹ができ、水泡になります。水泡の大きさは粟粒大から小豆大で、中央部に陥凹があります。その後膿疱、かさぶたとなり約3週間で治癒します。発疹ができて72時間以内に治療を始めれば多くは3~5日で症状が治まります。抵抗力が落ちていると全身に発疹ができます。痛みのピークは皮膚症状が出てから10日目くらいです。痛みは急性期の炎症により神経に強い損傷が生じたことによります。皮膚症状が重傷な人、夜も眠れないほどの痛みのある人、高齢者は帯状疱疹後神経痛(PHN)が残る可能性があります。PHNは難治性で、治療が効きにくいことが多く、PHNに進ませないことが大切です。統計的には30%の人がPHNに移行するといわれています。水ぶくれなどの皮膚症状が出ているときに患部を冷やすと血管が収縮し、神経に酸素や栄養が行かなくなり神経の破壊が進むため、PHNのリスクが高まります。約1%の人は2回以上帯状疱疹になります。
早期の場合はゾビラックス、バルトレックスなどの抗ウィルス薬の内服です。重症の場合は入院し、抗ウィルス薬の点滴静脈注射を行います。抗ウィルス薬はウィルスの増殖抑制効果しかなく、膿疱や潰瘍ができる頃は抗ウィルス薬は効きません。早く投薬を受けることが必要です。水痘ワクチンを成人に接種すると帯状疱疹や帯状疱疹後神経痛の予防になるといわれています。抗ウィルス薬の内服は内服後2.5日から効いてきます。水痘患者と接触の機会が多い幼稚園や保育園、小児科医師などには帯状疱疹患者が少ないことがわかっています。ウィルスとの接触により、免疫価が高くなり、発症しにくくなっていると考えられます(ブースター効果)。
三叉神経第1枝前顔部前頸部で発症した場合やウィルス血症のように全身に水泡が播種状に出現した場合はウィルス性髄膜炎合併のリスクが高くなります。鼻背や鼻翼に水泡を形成した場合は鼻毛様体神経が侵され、眼合併症としてブドウ膜炎、角膜炎、結膜炎発症のリスクが高くなります(ハッチンソン症候)。視力に影響が出ることもあります。耳介やその周辺に発症した場合は聴神経障害により眩暈、耳鳴り、顔面神経の障害による難聴、顔面神経麻痺、味覚障害に注意が必要です(ラムゼイハント症候群)。歯槽骨の壊死、歯の脱落が発生することもあります。