プロバイオティクスとして、虫歯菌、歯周病菌に選択的に効く薬、L8020菌抗菌ペプチド、イータック
今月の話題はイータックによる歯の抗菌についてです。イータック(Etak)は広島大学の二川浩樹教授によって開発された抗菌システムです。歯垢がべっとりあるのに虫歯や歯周病になっていない人がいることはよく知られています。これは口腔内の常在菌の菌株の違いによるものと考えられています。このことにプロバイオティクス(probiotics)の考え方を応用したものがイータックです。プロバイオティクスとは、自然由来の乳酸菌などの善玉菌と呼ばれる有益な菌を取り込んで、悪玉菌の増殖を抑え健康を維持しようという方法です。ビフィズス菌、宮入菌など、宿主に有益な作用をもたらす生きた微生物を腸内フローラに取り込み、体のバランスを改善します。一方、消毒薬、抗生物質、抗菌剤を使って細菌を減少させ、治癒に向かわせる方法はアンチバイオティクスといいます。
口腔にプロバイオティクス作用を適用し、オーラルフローラに有用細菌を取り込ませることで病原微生物の感染力を抑え、宿主と病原微生物のバランスを整える、それにより、う蝕や歯周病のリスクを少しでも抑えることはできないか?そう考え、二川教授達は、う蝕り患歴のない子供からお年寄りまで13名の唾液を採取しました。その唾液から乳酸菌株42菌株を分離し、スクリーニングを行いました。
①虫歯菌ミュータンス菌に対して抑制効果の高いもの、
②歯周病菌であるPG(ポルフィロモナスジンジバーリスPorphyromonas gingivalis)菌への抑制効果のあるもの、
③カンジタ菌(candida)にも効果のあるもの
を探し3菌株を分離しました。歯周病は歯周組織の炎症から始まりますが、その原因となるのはPG菌などの細胞壁を構成するリポ多糖(Lipopolysaccharide,LPS)と呼ばれる内毒素です。PG菌など歯周病菌の多くはグラム陰性菌で、内毒素であるLPSを産生し、歯周組織を破壊するだけでなく、炎症部分から炎症性物質(サイトカイン、ケモカイン)やLPSが出て血流を介して全身に伝播されます。それらにより、全身はさまざまな悪影響を及ぼされます。歯周病菌が破壊されても、LPSが残っていれば全身の健康に悪影響を与えてしまいます。カンジダ菌はバイオフィルム形成を促進し、持続させます。カンジダバイオフィルムが形成されると殺菌成分は内部まで浸透しません。3株の内の最も有効な菌が分離され、様々な試験を行いました。ミュータンス菌(Mutans streptococci)の口腔内保菌を有意に減らすことができました。pgLPSに対する不活性化作用も確認されました。炎症性サイトカインの発現も抑制することが確認され、歯周病菌連鎖を食い止められることがわかりました。
L8020菌と名付けられた分離菌の抗菌ペプチドには、カンジダ菌に対する抗菌作用も認められました。抗菌ペプチドはEtakと名付けられ、その後の試験で、ノロウィルス、コクサッキーウィルス、MRSA、O157、サルモネラ、マイコプラズマにも有効なことがわかりました。2013年 イータックは『感染の拡大を防ぐ固定化出来る抗菌抗ウィルス消毒薬』として文部科学大臣表彰(科学技術省 開発部門)を受けています。現在、イータックを使った義歯用薬剤、ハブラシ消毒剤、ヨーグルト、タオルが実用化されています。