血液抗凝固薬ワーファリン

今月の話題は血液抗凝固薬ワーファリンです。歯科で抜歯をすると出血しますが、通常は圧迫すると止まります。
これは生体防御作用の一つで、血栓が傷をふさぐことで止血されます。血栓には血小板血栓(一次血栓)と、フィブリン血栓(二次血栓)があります。
血小板血栓は血液中の血小板が血管の損傷部位に集まり、固まってできます。フィブリン血栓はフィブリン生成反応(血液凝固系)により作られ、血小板血栓より物性が強固です。
通常の状態では血栓ができないように血液凝固系は抑制されています。
高齢者に多い心房細動のように血液凝固系が活性化されやすい状態で、心臓内に血栓が作られると、作られた血栓が末梢の動脈をふさぎ、血流を止めてしまいます。
そこから先の組織には壊死が起こり、梗塞が発生します。脳に梗塞が発生すると脳梗塞です。
このような梗塞を予防するために血液凝固系の抑制が行われ、この時に使われる血液抗凝固薬の代表がワーファリン(ワルファリン)です。
ワーファリンは1962年から使われています。ワーファリンを使っている人が歯科で抜歯を行った場合は、止血が難しくなります。医科との対診が必要になります。
抜歯の日に合わせて投与を中止する、服用量を減らす、などが考えられます。

実際には
① ワーファリンの服用を中止すると約1%に血栓塞栓症が発生する。
② ワーファリンを服用したまま抜歯を行うと0.2%に異常出血がおこる。
そのため通常はワーファリンを服用したまま抜歯を行います。異常出血も局所止血処置で対応します。
ガイドラインでは、
 A ワーファリン継続下に抜歯可能なINR(抗凝固作用プロトロンビンン時間国際標準比)は3.0以下。
 B 抜歯判定のINRは抜歯の72時間以内のものを使います。
③ INRが治療可能域内での普通抜歯では大多数は30分以内で止血する。
④ 止血は局所止血材の使用、縫合、圧迫止血によって行われる。
⑤ 止血シーネを使用することもある。
ワーファリンはビタミンK依存の凝固因子の生合成を抑制することにより凝固系の複数のステップを抑制して抗凝固作用を発現します。
ワーファリンは適切な抗凝固作用を維持することが難しく、抗凝固作用が強すぎると脳出血などが起こりやすく、弱すぎると脳梗塞のリスクが高くなります。
定期的にINRを測定し、量の調整が必要です。
また多くの薬剤(解熱鎮痛消炎剤:アトセトアミノフェン、セレコキシブ、アスピリン、インドメタシン、サリチル酸類、等。抗生物質製剤:マクロライド系、セフェム系、ペニシリン系、テトラサイクリン系)により、作用が増強される性質があります。
納豆やビタミンKを多く含む食品は抗凝固作用を弱める働きがあります。
たくさんの問題点があるため、新しい抗凝固剤(ダビガトラン:NOACs)も開発されてきました。ダビガトランはマクロライド系のみ併用注意です。
まだ歴史が浅いため、臨床データの蓄積が十分ではなく、不明な点も多々あります。歯科的にはINRが使えない、半減期が短い、などの違いがあり、それぞれに応じた対応を行います。