ホモサピエンスの環境への適応

今月の話題はホモサピエンスの環境への適応です。

① 赤道から遠ざかるにつれて日射量が少なくなることから肌の色が薄くなる。
② 寒冷地に行くと、手足が短くなり、ずんぐりした体になる。
③ 硬いものを食べる人たちは顔つきがごつくなり、軟らかいものを食べる人たちは顔つきが華奢になっていく。

日差しの極めて少ないヨーロッパに行った人たちに求められたのは肌の色でした。
肌の色はメラニン色素の量によって決まります。
メラニン色素は紫外線が体内に侵入するのを防ぐ働きがあり、日光の強い熱帯地方で誕生したホモサピエンスの肌はメラニン色素が多く濃褐色をしていました。
紫外線は皮膚内の細胞に侵入し、遺伝子情報を担うDNAを傷つけるため、日常的に紫外線にさらされていると黒色腫瘍のような癌が引き起こされてしまいます。
濃褐色のメラニン色素が多い人が日射量の少ない土地に行くと紫外線の害は受けない代わりに紫外線による利益も受けられなくなってしまいます。
紫外線により体内で作られるビタミンDが不足してしまいます。ビタミンDは腸でカルシウムを吸収するのに役立っているので、ビタミンDが不足するとカルシウム不足になってしまい、骨の発育が不十分になってしまいます。
ヨーロッパは冬場などはほとんど日が差さないことが多く、肌の色が濃い子供はくる病になる確率が高く、少しでも肌の色が薄い子供が生き残るということが繰り返されました。
ホモサピエンスがヨーロッパの中心に入っていくのに1万年ほどかかりました。この1万年の間にもともとは肌の色が濃く、手足の長いアフリカ人だったホモサピエンスは徐々にヨーロッパの風土に適応してメラニン色素の少ない肌に変わっていったのです。
当時ヨーロッパに住んでいたネアンデルタール人と1万年ほどは共存していましたが、2万8千年前くらいにはネアンデルタール人を絶滅に追い込み、ヨーロッパ人の直系の祖先となったのがクロマニヨン人です。
ヨーロッパ人の顔は彫りが深いのが特徴です。鼻の付け根が窪んでおらず額からそのまま鼻が出ているかに見えるほど鼻梁が高い形です。
彼らは植物が育ちにくい土地柄により、古くから牧畜と農耕(麦)をしており、乳製品や肉、パンなど軟らかいものを食べていました。
そのため咀嚼機関が退化し、頬骨と歯列が引っ込んだ分鼻梁を収めるスペースが出っ張ったため、高い鼻、幅が狭く、上から見ると前後に長い頭の形になっていったのです。
幅の狭い顔形になったため、基本的にヨーロッパ人は前歯が歯列に入りきらず、上顎前突が頻発する結果となりました。ヨーロッパ人から発達した歯科矯正治療の基本治療はいわゆる出っ歯の治療です。
日本人に多い反対咬合はとても少ないことが知られています。