病巣感染

今月の話題は病巣感染です。病巣感染とは、体のどこかに限局した慢性炎症があり、それ自体はほとんど無症状か軽微ですが、それが原因となって遠隔の諸臓器に反応性の器質的あるいは機能的障害をおこすことです。

扁桃病巣感染が60%、歯性病巣感染が25%といわれています。扁桃が原病巣となるものには、IgA腎症、(紫斑病性腎炎)、掌蹠膿疱症、胸肋鎖骨過形成症の3つが疑われています。

しかし、軽度のIgA腎症でも扁桃摘出単独で寛解する率は約40%、掌蹠膿疱症、胸肋鎖骨過形成症での扁桃摘出単独で寛解する率は約50%です。関連があることはわかっていますが、まだ詳しいことはわかっていない段階です。
二次疾患でのIgA腎症、掌蹠膿疱症、胸肋鎖骨過形成症の3疾患においても、当該部位に病原菌や毒素が検出されるわけではありません。免疫担当細胞の介在による炎症が原因での発症です。

上咽頭炎も病巣感染の原病巣として疑われています。
上咽頭炎はめまい、頭痛、慢性咳、腸障害、肩コリ、うつなどの自律神経調節障害に関連します。
病巣感染では原病巣の慢性炎症が体液性免疫、細胞性免疫の異常を引き起こし、それが二次疾患をおこします。体液性免疫では体の中で抗原抗体反応がおこり、入ってきた異物を攻撃します。この抗原抗体反応により産生された複合体が二次疾患の臓器に沈着し問題を起こします。

慢性腎症では抗原抗体反応複合物の糸球体基底膜への沈着が見られます。

細胞性免疫では、好中球、マクロファージ、キラーT細胞などの実効細胞が二次疾患の部位に誘導され、サイトカインなどを放出することで二次疾患が発症します。体液性免疫が原因の場合は原病巣の除去により二次疾患の原因はなくなりますが、細胞性免疫が原因の場合では、感作されたメモリーT細胞がすでに全身を回っているため、原病巣の除去だけでは二次疾患の寛解に至りません。頻度は細胞性免疫の方が圧倒的に多いといわれています。

歯性病巣感染の原因病巣は歯周病、根尖病巣などです。特に歯周病は成人の80%の人がり患しているといわれ、ここでも歯周病の治療が全身の健康に寄与することがわかります。

最近は歯周病菌がIgA腎症の患者の口蓋扁桃からも検出されることが報告されています。また唾液中の細菌数と種類が健常者に比べて習慣性扁桃炎・IgA腎症の患者では減少していることが報告されています。口腔内常在菌叢の破たんが病巣感染の発症に関与していると思われています。細菌叢破たんの第一の原因は口呼吸であると推測されています。