傷の治療方法

今月の話題は傷の治療方法です。今、傷の治し方は根本的な改革が進められています。これまで傷は、濡れないようにできるだけ乾燥させて治癒を待ちました。お風呂などで、濡れないように、ヨードチンキで消毒した指の傷を、ずっと上に持ち上げていましたよね。実は、乾かないように、浸潤状態を保つほうが、じくじくしたままでいさせた方が、治りが速やかであることがわかったのです。傷の治し方の3原則は①傷には絶対に消毒剤をつけない。②傷は水道水でよく洗う。③傷は決して乾かさない、です。

①消毒剤は細胞毒性により、治るための修復細胞さえも殺してしまいます。反対に皮膚上の常在菌は完全には滅菌できず、一時的に菌数が少なくなっても、2時間もすれば菌数は戻ってしまい、何にもならないこと、菌がいても(MRSAでさえ)、化膿するか、化膿しないかは壊死組織の存在が決めていることがわかりました。消毒は味方を傷つけていただけだったということです。海外ではインスリンの自己注射もアルコール消毒などせず、下着の上から直接針を刺すことが常識になっています。必要な消毒と、不必要で害のある消毒を、区別しないといけなくなりました。②水道水中の菌数はとても少ないことから、日本以外のほとんど国では、洗浄に水道水を使い、生理食塩水などの滅菌水は使っていません。大量の水道水で洗うことのほうがはるかに菌数を減らせます。細かな異物の除去にも効果的です。③細胞を再生させるためにはシャーレの中のような湿った環境が必要です。口の中の傷は治りやすいのも同じ理由です。口呼吸では治癒が遅くなります。ガーゼなどを使うとガーゼから水分が蒸発し、乾燥が進みます。無理にガーゼ交換するとせっかく増殖した修復細胞が剥ぎ取られてしまいます。ガーゼは百害あって一利なしということです。

注目されているのは食品ラップを使ったラップ療法です。傷を水道水でよく洗い、消毒せずに、上からラップで保護します。安価で、傷の治りがとてもよいことが注目されています。褥瘡の治療でも有効でした。