生物の細胞は一定期間低酸素状態に置かれると元の酸素濃度に戻しても癌化することがわかっています。

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今月の話題はワールブルグ効果です。

 

オートワールブルグとは?

オート・ワールブルグはドイツの医師です。呼吸酵素チトクロム系の発見で、1931年ノーベル生理学医学賞を受賞しました。その後1955年、細胞は一定時間低酸素状態にあると、通常の酸素濃度に戻しても大多数の細胞は死滅するが、一部の細胞はがん化し生き残ることを発見しました。その際にがん化した細胞では酸化的リン酸化によるエネルギー産生の割合が低下し、細胞質における嫌気的解糖系を介したエネルギー生産のほうに代謝系がシフトしていることを発見しました。これをワールブルグ効果といいます。

 

正常細胞は、エネルギー生産方法がミトコンドリアから下等生物に多い解糖系にシフトしたがん細胞を排除しようとします。

最近の研究では腫瘍中のミトコンドリアの機能そのものは正常であることが多くあることが分かりました。また、この変化は正常細胞との相互作用により発現されることもわかりました。正常細胞はワールブルグ効果様の代謝変化をした細胞を組織から排除する機構を持ちます。(細胞競合)これは個体にとって危険なものや環境に適していない細胞を組織から排除することで、生体内の恒常性を保つことに寄与しています。解糖系の代謝は下等生物か、胎生期の未熟な細胞が行います。通常の生物は好気的環境下でエネルギーをミトコンドリアからATPとして得ます。

 

解糖系によるATPの合成は嫌気性に行われ2ATPが産生されます。

呼吸代謝には大きく分けて解糖系、クエン酸回路、電子伝達系があります。生物内では、取り込んだグルコースを解糖系、クエン酸回路、電子伝達系を経てATPとしてエネルギーを得ます。グルコースはこれらの代謝系により二酸化炭素と水にまで分解され、その過程でATPが生産されます。解糖系は細胞質内で起こり、酸素を使わない糖の酸化過程です。グルコースをピルビン酸と乳酸にまで変換します。その過程で2ATPが産生されます。

 

ミトコンドリア内ではクエン酸回路と電子伝達系により、38ATPを合成します。

クエン酸回路と電子伝達系は真核生物では好気的環境下でミトコンドリア内で行われます。クエンサン回路はピルビン酸から変換されたアセチルCoAを二酸化炭素とNADH2などに分解します。酸化的リン酸化はミトコンドリア内部のマトリックスでNADH2などの水素受容体を水素イオンと電子に分け、水素イオンを外膜と内膜の間に運びこみ、水素イオンの濃度勾配を利用して酸化的リン酸化が行なわれ、ATPを産生します。酸素に電子を伝えて水を生成する過程を電子伝達系と呼びます。ワールブルグはミトコンドリア内膜に存在する酵素チトクロムを発見しました。チトクロムはミトコンドリア内膜に含まれるヘム鉄を含むタンパク質で、酸化還元電位の異なる分子群が電子伝達反応を行います。ミトコンドリアの電子伝達系からは36分子のATPが産生されますが、解糖系では2分子のATPしか産生されません。

 

ATP合成の速さは解糖系のほうが100倍速いので大量に早くエネルギーが得られます。

合成の速度は単純な解糖系のほうが100倍速いことが分かっています。グルコースが大量にある環境では解糖系で代謝するほうがATPは過剰に産生されます。ワールブルグにより、がん細胞は解糖系のエネルギー生産方式にシフトしていることが分かっていますので、この過剰に産生されたATPを使うことでがん細胞は無限に増殖していきます。腫瘍が増大して低酸素状態になっても嫌気的な反応なので反応は続きます。