クローン羊のドリーの誕生は、卵子の中の何らかの物質が分化した細胞核を初期化したことを意味します。山中教授はこの初期化のための因子を発見し、iPS細胞を作りました。

  • クローン羊のドリーの誕生は、卵子の中の何らかの物質が分化した細胞核を初期化したことを意味します。山中教授はこの初期化のための因子を発見し、iPS細胞を作りました。

今月の話題は山中教授が作ったiPS細胞です。

iPS細胞はあらゆる細胞になれる能力を持ちますが、もとは皮膚の細胞です。通常、分化を遂げた細胞は元の未分化な細胞には戻りません。分化した細胞では①ヒストン修飾と②DNAのメチル化により、細胞で働く遺伝子の組み合わせを後戻りができないように固定化します。固定化された核の状態は細胞分裂を経た後の細胞にも受け継がれます。
①ヒストンは核の中にあるDNAを巻き付けておくタンパク質です。ヒストン修飾はヒストンがメチル化やアセチル化を受けることをいいます。細胞が分化していく過程ではいくつかのヒストンが修飾を受けることでDNAがきつく巻き付けられたままとなり、そこのDNAが読み込めなくなります。読む必要のなくなった部分のページを開けられなくして、読めなくします。
②DNAのメチル化は、DNAの4種の塩基ATCGの一つC(シトシン)にメチル基を付加することです。メチル化されたDNAは遺伝子としての機能を失い、読み込めない状態になります。読み込む必要のない部分を意味不明な文字にして読めなくします。

山中教授が発見した4種のヤマナカ因子は細胞の初期化を行い、分化した繊維芽細胞を全能性の細胞へ戻します。細胞の初期化は一度分化した細胞をもう一度元の全能性の細胞へ戻すことです。山中教授はこの初期化のために必要な初期化因子4個あるいは3個を発見し、これらを使って分化した繊維芽細胞を初期化し、人工的に多能性を取り戻した全能性細胞であるiPS細胞(人工多能性幹細胞)を作りました。

一方、受精卵から作られるES細胞はまだ分化が始まっていない段階の細胞塊から作られます。受精卵から、細胞分裂を繰り返してできた細胞の塊の胚盤胞の一部、内部細胞塊を取り出し、培養液で培養して無限に増殖するようにしたものです。培養液の成分により、細胞はES細胞になったり、何らかの細胞への分化を始めたりします。ES細胞は不妊治療などでいらなくなり、廃棄される予定の受精卵を使いますが、子宮に戻せば赤ちゃんが誕生します。そのため倫理問題が提起されています。

iPS細胞の場合は受精卵は使わないためこのような問題は起こりません。iPS細胞は、材料は違いますが、ES細胞と同じものと考えられています。

クローン羊のドリーは大人の羊の乳腺細胞の核を、核を取り除いた卵子の中に入れることで、乳腺細胞が初期化され、ドリーが誕生しました。これは卵子の中の何らかの物質が大人の乳腺細胞核を初期化したことを意味します。この時点ではヤマナカ因子はまだわかっていませんでした。また、卵子の中の初期化因子は精子を初期化し、受精に導くときにも作用します。