脳の発達と同時期に発育する歯は、正常に機能していないと、キレル、コモル、サワグ、さらに認知症を引き起こすことがマウスの実験で実証されました。発育期の歯列育形成は脳の発達を助けます。

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今月の話題は咀嚼と脳の発達との関係です。

脳の発達と咀嚼には深い関連性があることがわかっています。マウスの実験で、3週齢のマウスに粉の餌だけを与えて11週育てた場合(軟食群)と、通常の硬いペレットで、11週育てた場合、軟食を4週間その後7週間硬いペレットで育てた場合のそれぞれの脳の発達の比較実験をしたものがあります。

①home cage activity test(基本的な情動性を見る)
軟食群は活動量の低下がみられ、後半ペレットに変わった群は後半から活動量は通常群のレベルに戻った。

②open field test(新規環境下での活動性、情動性を見る)
軟食群は有意に新機環境下での活動量が増えた。いつまでも不安が解消しない。

③プレパルス抑制試験(通常は驚愕刺激の直前に微弱な刺激を先行させることで驚愕反応が大幅に抑制される。統合失調症患者及び統合失調症動物モデルの両方ともにおいてプレパルス抑制試験の低下がみられる。)
軟食群は抑制が低下した。予想することができない。脳の学習がなされない。

④tail suspension test(しっぽを持って宙づりにすると最初は暴れるが、いずれあきらめて動きが止まるまでの時間。うつ病の場合、時間は短くなる。)
軟食群は有意に、動きが止まるまでの時間が短縮された。引き込もりの傾向が強い。

⑤海馬における神経新生の評価(成人でも海馬では神経細胞の新生が行われている。)
軟食群では有意に神経新生の低下が認められた。

⑥海馬、前頭葉皮質でのBDNF遺伝子発現量の比較。
うつ病や、アルツハイマー病などの精神疾患、神経変性疾患においてはBDNF遺伝子発現量の低下が見られる。軟食群では有意にBDNF遺伝子発現量の低下が認められた。

軟食による影響は目に見える顎骨の未発育ばかりでなく精神的な疾病も引き起こすことが示唆されています。現代の小中高等学校、さらには引きこもる人々における、キレる、コモる、騒ぐが、実験マウスの精神疾病の様態と同じ様態であることがわかります。健康な脳の発達のためには咀嚼が大きな因子となっています。
さらには認知症の発症も咀嚼の不足と深く関係することも示唆されています。発達期のみならず一生の間咀嚼は、人の精神的健康のために欠くべからざるものであることがわかります。実験を補助した理化学研究所の研究者が言っていた言葉が印象的です。『今まで認知症の研究のために、あらゆる薬剤を使って認知症マウスを作り出そうと努力を重ねてきたものの見つけられなかったが、単に噛まない、軟食にするだけで認知症になることが解り、驚いた。』

離乳以後の咀嚼を学習する時期は、脳の発達にとっても重要な時期に重なり、離乳後の軟食は脳機能発達によくない影響を与えます。老年期の咀嚼困難状態も認知症へのあと押しとなる可能性があり、咀嚼を重視した対応が必要です。咀嚼はヒトの脳機能の発達と維持のためにとても重要であることがこの実験でわかります。