小児の視力は基本遠視です。成長するにつれ眼軸長が伸び、正視眼になります。

今月の話題は近視です。

目は水晶体と網膜で構成されます。網膜に焦点が合うように水晶体には小さな筋肉(毛様体筋)がついており、レンズの厚みを調整して焦点調整を行います。近くのものを見るときはレンズの厚みを厚くすることで凸レンズにし、網膜に焦点を合わせます。調整力を働かせないで、遠方から来た光(平行光線)が網膜に焦点が合う状態を正視眼といいます。調節力を働かせないで見たときに、焦点が網膜の前方にあるものを近視、後方にあるものを遠視といいます。

近視の場合は遠くのものはぼやけて見えませんが、近くになると光は平行ではなく広がりながら入ってくるため、はっきり見えます。凹レンズを使うことで、遠くからの光(平行光線)をレンズの屈折で広がりながら瞳孔に入ってくる角度に変化させられ、調整力を使わない状態でも網膜に像を結ぶことができます。

遠視の場合は遠くのものも近くのものも焦点は合いません。小児は遠視であることが基本ですが、調整力が強いため視力検査で異常にはならないことがよくあります。遠視は凸レンズで屈折を強くして焦点を近くすることで見えるようになります。

乱視は角膜や網膜、水晶体のひずみが原因でおこります。焦点が一か所にならないため、ひずみを補正レンズで調整して焦点を合わせます。

小児は基本遠視であり、眼窩が成長伸展することで眼軸長(レンズから網膜までの距離)が増し、正視眼に移行します。小児期の近視はこの眼軸長の過剰伸展が原因です。

近視進行の速さは遺伝要因と環境要因の両方が関連します。両親が近視である場合は子供も7~8倍の確率で近視になることが報告されています。生まれ持った遠視の強さが、将来の近視になるかならないかに大きくかかわります。近年の近視の多さは平均身長が伸びたことと関連するとの意見もあります。近視は目の成長が止まると進まなくなります。眼窩の過剰伸展では、眼球が引き伸ばされることによる網膜の菲薄化がおこり、網膜剥離の危険性が指摘されています。環境因子とは、水晶体調整過剰による筋肉の拘縮です(屈折性近視)。運動後のストレッチのように、縮んでしまった筋肉をストレッチすることで回復します。遠く近くを見るなど(望遠訓練)で、筋肉を緩めることが推奨されています。偽近視の治療を行い、一時は成果を上げながらも結局は本当の近視になってしまうことがしばしばあるのは、近視の進行が、網膜自体が後方に引き伸ばされることによる場合が多いためです。軸性近視はこの筋肉のストレッチ運動では改善しません。近視の人の大部分は軸性のものです。

近視は、レンズ(眼鏡)で補正するか近視屈折矯正手術(レーシック)で外科的に治す等が対応となります。アトロピンなどの筋弛緩薬を使うこともあります。遠視の人に調節緊張性近視の率が高いのは、筋肉緊張の度合いが近視の人より大きいためです。目の疲れを訴える方はこのタイプが疑われます。